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日常生活に困難やストレスを感じている子どもや、子どもを取り巻く環境を、専門的な視点から支援したい。そんな思いから設立された一般社団法人ぽけっと(東京都文京区)の2人の専門家にインタビュー。
髙濵怜美さんは臨床心理士として、石嶋敦子さんは言語聴覚士として、その他のスタッフと連携しながら、すべての子どもがそれぞれの生活環境の中で十分に力を発揮できるように、お子さんや保護者を支えています。支援の内容やお仕事について話を聞きました。
「うちの子、発達障害かも?」と心配される保護者の方、増えています
髙濵さん:言葉がちょっと遅いかな、行動が落ち着かないな…と、保護者の方が心配されることって多いですよね。しかも今、「発達障害」という言葉だけが一人歩きしてしまっていて、「発達障害かしら? どうしたらいいんだろう?」とすぐ不安に思ったり、心配されたりする方が増えています。
一方で、発達障害と関係なくても、いろいろな環境の中でその子らしさが発揮できなかったり、その子らしく生きることが難しくなったりしている子どもがいるのも事実です。
子どもは一人ひとり個性が違います。私たちは、お子さんが社会の中でその子らしさを生かして、人と関わりながら生きていくにはどうしたらいいかを、保護者の方、園や学校の先生方と一緒に考えていきたいと思っています。そして、その子らしく生きていけることを大きな目標にした支援を行っています。
石嶋さん:根本にあるのは「子ども一人ひとりの生きやすさを応援する」ということ。対象の方を決めているわけではなく、いろんな環境で困ってしまうことがあるお子さんと保護者の方、そして、園や学校の先生方を含め支えていきたいと考えているんです。
子どもだけでなく、保護者の方への支援も大切にしています
HAPIKU:子どもだけに限定した場所、というわけではないんですね?
髙濵さん:2歳~小学校6年生のお子さんに対して約1時間の療育を行っていますが、お子さんだけにアプローチするということではありません。お子さんの生きやすさのためには、保護者の方がお子さんをどう見立てていくか、その行動をどう理解していくか、心情をどう受け止めていくかということも重要なんです。
保護者の方が不安な中でお子さんに関わると、そうした気持ちは反映されてしまうこともあると思うんです。「親だから頑張らなきゃ」という気持ちは皆さまとても強くお持ちですし…保護者の方のお話をお聞きすると、不安を吐き出して落ち着かれる場合もあります。そうすると、「だったら、こうしていけばいいかな?」と具体的な支援策を一緒に考えていけることもあるんですよ。
支援はお子さんにだけでなく、保護者の方も一緒でないと意味がないと私たちは考えています
HAPIKU:実際にこちらに支援を受けにいらっしゃる方は、保護者の方が自分のお子さんとの関わりの中で不安を抱いてご相談…という例が多いのですか?
髙濵さん:そうですね。こちらの場合、文京区や隣接区からのご相談が多いです。園に通われているお子さんだと、園でお友達に手を出すトラブルが多い、集団になじめないなどということに悩まれて、区の相談窓口からこちらの「ぽけっと」を紹介されて来られる方が多いようですね。
臨床心理士、言語聴覚士のお仕事って?
HAPIKU:スタッフの方のほとんどが、専門的な資格を持っているとお聞きしました。
髙濵さん:そうですね。割合としていちばん多いのは臨床心理士。心理士は読んで字のごとく心理学の専門家で、発達全般を広く扱います。
言語聴覚士は、耳、聞こえ、言葉のスペシャリストです。作業療法士は、手先や運動など、簡単に言えば体の専門家。このほかにも、保育士や特別支援教育の教員免許状を持っているスタッフ、福祉系のスタッフなど、みんなが何らかの資格やスキルを持っています。
専門家によるチームワークで子どもの発達を支援
HAPIKU:いろいろな資格を持つ専門家集団が、それぞれのお仕事に取り組んでいるということですか?
髙濵さん:言語の専門家だから言葉のことしかやらない、心理の専門家だから心のことしかやらないとか、そういうことはないんですよ。それぞれに得意分野があるうえで、子どもの発達のベースの理解や方向性については同じ考えを持っているので、自分が担当しているお子さんでも相談事があれば、ほかの専門家に相談することもよくあるんです。
HAPIKU:チームワークで取り組んでいるわけですね。
石嶋さん:私は言語聴覚士ですが、言葉だけでは体が成り立たないし、心もついてきません。お子さんの発達には、すべての面でのアプローチが必要だと思っています。お子さん自身が育っていく方向を考えて支援していくのが私たちの仕事なんです。
子どもの発達には順序があり、言葉・心・体それぞれが関係し合っている
髙濵さん:チームワークの一例として、乳幼児の食に関して、言語聴覚士や作業療法士が関わることもあるんですよ。
石嶋さん:お子さんが生まれてきて、あっという間に立ち上がって、歩けるようになったら、しゃべれるようになる…と発達には段階がありますよね。そのベースになるのはからだです。
食べるという動作が、口全体やベロの動かし方を育てていき、最終的には言葉につながっていきます。しかし、お子さんは日々の生活の中で練習していかないと、上手にはならないものなのです。
HAPIKU:食事がおしゃべりの発達につながるというのは意外な気がしました。
一般社団法人ぽけっと
2017年2月設立。児童発達支援・放課後等デイサービス事業『発達支援ルームぽけっと』や園や学校の先生方を支援する研修・巡回事業等のサービスを提供しています。
https://www.pocket-room.org/