歩き始めの時期に視界が大きく変わる!
「食事に集中できません」というご相談は、お父さん・お母さんからだけでなく、保育園や幼稚園の先生からもよく伺います。
たとえば
- 苦手な味や触感が多く食べられるものが少ない
- スプーンやフォークの操作にとても神経を使うため、すぐに疲れて集中が切れてしまう
- 食事の席についた時からきょろきょろしてしまう
- 食べもので遊び始めてしまう など
大人が『食事に集中できない』と気になる場合は、こうした“気が散りやすい” “遊び食べになっている”という場面に出くわしたときが多いように思います。
そのような行動の理由や背景はお子さん一人ひとりで異なりますが、お子さんの成長過程で“一時的に『気が散りやすい』行動が増えるタイミング”というのがあります。それがちょうど歩き始めの時期です。
歩き始めた時期のお子さんは、立ち上がったことでこれまでの座っていた姿勢やハイハイの姿勢の時、つまり床に近い姿勢の時とは視界が大きく変わります。単純に視点が高くなり、座っていた時には見えなかったものが見えてくるようになると、ハイハイの時には知らなかった世界が目の前にたくさん広がっています。お子さんが歩き始める時期は、からだの発達とあわせて、お子さんの興味・関心が一気に広がりやすいタイミングでもあるのです。
“あれ、なんだろう?” “これってどうなってるんだろう?”と、広がった興味に沿って、お子さんは自分でいろいろなことを試していきます。あれこれと興味の向くままに行動するとなると、当然、1つのことに集中してじっくり取り組むということは難しくなってしまい、座ったいすから見える景色を堪能したり、テーブルの上にある物を取ろうとしたり、スプーンやフォークでテーブルや食器を叩いてみたり、食べ物を手でつかんで感触を確かめてみたり…大人が「それやめてー!」と、思わず言いたくなってしまう行動が出てきてしまうことも、お子さんの成長段階を考えるとある意味自然な流れともいえます。
大人はどう関わるべきでしょう。
こうしたお子さんの行動に対して、大人はどう関わってあげるとよいのでしょうか。大前提としては、“毎日がんばりすぎなくていい”ということです。体重が増えず、医師や保健師などから食事や栄養の指導を受けている場合は除きますが、『食べさせる』ことに大人ががんばりすぎると、お子さんにとって食事の時間が苦しい時間になってしまいがちです。特に食事はマナーと直結しやすい部分もあるため、“きれいに食べさせなきゃ” “お行儀よくしなくちゃ”と意識が向きやすいですが、この時期のお子さんに求めすぎると、お父さん・お母さん自身もつらくなってしまいます。
特に興味・関心が急速に広がっているこのタイミングで、「一定の食事姿勢を保ち」ながら、「集中」して「しっかりと食べる」ことをがんばりすぎなくてもいいのではないか?と思います。
環境づくりや食器や食具の工夫で十分!
そうはいっても好き勝手させてよいというわけではなく、この時期にはお部屋の中の環境、食器や食具の工夫をしてあげるだけでも十分かと思います。たとえば、食事をする席の近くに玩具があったら、そちらにお子さんは気持ちが向いてしまうのは当然ですよね。食事の時には片づけておくなどお子さんの視界に入らないよう、物の位置に気をつけてあげることは大切です。また、テレビやタブレットに気持ちが向きやすいお子さんは、食事の時にはタオルをかけてテレビやタブレットを隠すなどそれ自体が見えないように工夫してあげてもよいかもしれません。
“自分でやりたい!”という気持ちが芽生えてきている時期のお子さんであれば、お食事を食べるとお皿の底から好きなキャラクターが出てくるような食器を使うことで、「食べたらこんなことが起こる!」というお楽しみ要素を入れてあげてもよいでしょう。
お子さんの成長段階や興味・関心の広がり方によって、関わり方や工夫の仕方は変わってきます。『食べる』ことにこだわらず、そのときのお子さんの成長や興味にあわせて、お父さん・お母さんと一緒に楽しみながら食事を進めていけるといいですね!
※今回は、一般社団法人ぽけっとの【臨床心理士】が執筆しました。
一般社団法人ぽけっと
2017年2月設立。児童発達支援・放課後等デイサービス事業『発達支援ルームぽけっと』や園や学校の先生方を支援する研修・巡回事業等のサービスを提供しています。
https://www.pocket-room.org/
■ ぽけっとの支援の内容やお仕事についてはこちらから