スプーンやフォークから箸へ。いつから箸をもたせるの?

食具について作業療法士が伝えたいこと、第3弾は「箸はいつからもたせる?」です。「大切な機能を育てる手づかみ食べ(第1弾)」に続き、第2弾は「スプーンではなく、フォークからスタートすること」でした。そして今回、箸を持たせるタイミングとその時の大事なポイントについて、専門家が伝えたいこととは…

お母さんや保育園の先生からよく「お箸はいつから始めればいいの?」というご質問を受けます。手づかみ食べを経てスプーン・フォークを持ち始めるころ、同じ食卓のお母さんやお父さんの使っている箸の存在を知り、もちたがるお子さんも多いですよね。「まだスプーンも使えないのに箸なんて…」と抵抗を感じる方もいらっしゃると思います。お箸はいつからもたせるとよいのでしょうか。

 

子どもがもちたいと思った時がそのタイミング

お箸を“もたせる”ということに関しては、子どもが「もちたいと思ったとき」、それがスタートのタイミングです。使ってみようとしたら、握り箸・刺し箸で構わないので、どんどん使わせましょう。スプーン・フォークをまだ上手に使えていないのにお箸をもとうとするお子さんもいますが、“もたせる”時期は関係ありません。スプーン・フォークと箸は全く使い方が違うため、フォーク・スプーンが完璧に使えていなくても箸を使い始めてかまわないのです。

 

しかし、ここで大切なのは“もてる”=“使える”ということではないこと。1歳ごろから箸を“もつ”ことはできます。閉じたり開いたりできるのは3歳前後ですが、そこから箸をきれいにもつことができるようになるのは10歳ごろです。“もてる”ことと“使える”ことの間にはたくさんステップがあるのです。

 

最近箸使いを補助するような道具(補助のついた箸)を見かけますが、幼児期の使用はあまりおすすめできません。指や手の裏の筋肉を過度に使ってしまうなど、箸を上手にもてるようになるまでに通る子どものてのひらの成長を阻害する可能性があるからです。お子さんが使う道具は箸だけではありませんよね。子どもの手は、様々な道具を使って失敗と成功を繰り返していく中で、手の機能や筋肉や感覚が育っていきます。成長の過程で、他の道具を使えるようになっていくのと並行して、箸も少しずつ上手になっていくのです。補助つきの道具で箸“だけ”がもてる・使えるようになればよいというわけではありません。

 

箸ははじめからきれいにもてなくても、成長の中で変化していきます。特に小学生になったら、周りの様子を見てますます意識的に持ち方を修正できるようになっていきます。もし、もち方を修正したい場合は小学生に入ってからにしましょう。もちろん、正しいもち方を伝えておくことは必要ですが、上手く使えるようになるのはまだまだ先。毎回の食事場面で一喜一憂せず、長い目で捉えてあげてくださいね。

 

子どもの気分によって食具も使い分けよう

箸を導入する上で大事な3つのポイント

①「食事の始めに取り入れる」こと
②「できないときはスプーンやフォークを使う」こと
③「できたときにしっかりほめる」こと

 

箸の使いはじめは、箸に興味があっても当然上手く使えません。途中から箸を渡すと、スプーンやフォークよりも上手く扱えないことにイライラし、しまいには食事に飽きて遊び食べを始めることも予想されます。箸を食事の始めに取り入れ、遊び食べになってしまう前にスプーンやフォークに持ち変えると上手くいきやすいでしょう。
また、食材やお子さんの気分によって箸・スプーン・フォークを使い分ける必要があります。柔らかかったり、小さかったり、崩れやすかったりと、箸でつまみにくい食材は箸の使いはじめには向きません。また機嫌が悪かったり、そもそも食事に気持ちが向いていなかったりすると、箸の練習どころではありませんよね。難しいときは早々にスプーンやフォークを渡してあげてください。
それから、できていないことを指摘するより、上手くいったときにしっかりほめる方が効果的です。箸を1回でも使えたら「上手にもててるね」「上手に使えてるね」などしっかりとほめて、スプーンやフォークに切り替えてあげるのもよいですね。

 

うまくいかなくても毎日の繰り返しが大切!

箸の使いはじめに、“箸だけ”で食事を摂ることはほぼ不可能です。それなのに箸だけで食べさせようとがんばると、食事そのものが楽しくなくなり、自分で食べることすらも拒否しはじめてしまいます。また、もちはじめはただ箸を“もっているだけ”になりやすく、フォークで食べられていたのに手づかみに戻ってしまうということも考えられます。

子どもがきれいにごはんを食べられないとついイライラしてしまったり、昨日できていたことができなくなってしまったりして落ち込むことがあるかもしれません。しかし、脳は毎日繰り返さないとそれが自分にとって大切な機能と認識しません。大切なことは「自分ですること」です。自分で考え、試行錯誤し、最終的に自分の力でできたことが脳にしっかりと定着し、習慣化されます。道具を使えることを優先するより、まずはどんな形でも自分で食べられることが大切です。道具を使いはじめる際はそのことを忘れずにいると、お母さんのイライラや焦りが少し軽減するかもしれませんね。時間がかかるかもしれませんが、お箸を使えるようになることは、首座りから歩くまでのように時間をかけてできるようになる動作です。気長に取り組んでいきましょう。

 


 

※今回は、一般社団法人ぽけっとの【作業療法士】が執筆しました。

 

一般社団法人ぽけっと

corporate009_img012017年2月設立。児童発達支援・放課後等デイサービス事業『発達支援ルームぽけっと』や園や学校の先生方を支援する研修・巡回事業等のサービスを提供しています。
https://www.pocket-room.org/


■ ぽけっとの支援の内容やお仕事についてはこちらから