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子どもの食事もヴィーガンにして大丈夫?

来月から離乳食が始まります。子どもが産まれて食への意識が変わりました。今世界で起きている自然災害は、大量生産優先の酪農による地球への負担が大きく影響しているとのこと。このままではこの美しい地球が壊れてしまう、将来の子どもたちが心配でなりません。
そこで自分に出来ることは何かを考えた時に、スーパーの肉や乳製品、たまごを食べない、、微力ですが消費を少しでも減らすということに行き着きました。全部をヴィーガンにできる自信はないけれど、背景を無視した消費はしたくないし子どもにもそれを伝えていきたいと考えています。

これを踏まえて、離乳食はどのように進めていくべきかとても悩んでいます。早くからたまごなどに慣れることでアレルギーを起こしにくくするという通常ルールがあるものの、率先して動物性をあげるのも気持ちに反するし、どのようにバランスを取って離乳食と向き合うべきでしょうか。
(0歳4ヵ月・男児)

A

今後のお子さんの気持ちも想像して、押し付けることのないように。栄養不足の問題にも向き合って。

今の環境問題などを憂いて、ヴィーガンという生活に興味を抱く方も増えてきていますね。しかし、今までの一般的とされてきた食生活とは違い、多くの制約があり、周りの理解、食材の購入先などの点から、簡単に取り入れていくことは難しいのではないでしょうか。それを覚悟した上で、それでも取り組んでいきたいというのであれば、栄養面のこともしっかりと理解しておく必要があります。

動物性食品を一切摂らない場合、不足する栄養素が必ず出てきます。

大人は、植物素材のサプリメントなどで補えば良いのでは…と考えるかもしれませんが、離乳食や幼児食において、サプリメントありきで栄養バランスを保とうとすることには、栄養士の立場からは疑問を抱きます。特に、離乳食は、授乳やミルクを飲むのと並行して進めていくものなので、栄養バランスよりも「できるだけ多くの食材に触れさせる」ということに大きな意義があります。(離乳期に与えないことで、複数の食材の食感・味・においなどに触れる機会を失い、味覚の幅を広げる経験を十分に積めないのではないか、という懸念があります。その後の偏食に影響を与える可能性も…)

仮に、保育園や幼稚園、小学校以降もずっとヴィーガンを貫いていくというのであれば、給食はどうするのか?外食はほとんどしないのか?などといったことも考えていくことになります。しかし、そうではなく、臨機応変に動物性食材も食べさせるつもりであれば、アレルギーが出ないかどうか、離乳食や幼児食のうちに必ず1度は口にさせておく必要があります。(給食の提供を受ける場合は、食べたことのない食材がないように家庭で食べさせておくよう指示を受けるはずです)

また、発育に必要不可欠な栄養素には、動物性食材に多く含まれているだけでなく、動物性食材からでないと体への吸収率が良くないものも存在しています。具体的なものは、次の通りです。

 

【タンパク質】
必須アミノ酸9種類の含有量のバランスが取れているものほど、体での利用効率がよいとされています。(タンパク質はアミノ酸に分解され、内臓や筋肉、骨など全身の細胞を作る材料となります)肉、魚、卵、乳は100(満点)が多いのに対し、大豆、穀類、ナッツ、野菜は100に満たないものがほとんど。また、植物性食材だけで1日に必要なタンパク質を補うには、大量に摂る必要があると言われています。

【カルシウム】
カルシウムは、同じ重量当たりの含有量の多さや、体への吸収率が食材によって大きく異なります。
☆ 乳製品:40~50%/★ 野菜、海藻:20%
大豆製品も、乳製品に近い吸収率と考えられていますが、大人換算で1回あたりに飲食する量に含まれるカルシウムの含有量は、乳製品の方が上回っています。

〇 牛乳200mlあたり、220mg(コップ1杯相当)
● 木綿豆腐150gあたり、140mg(1/2丁相当)
● 小松菜100gあたり、170mg(約1/2袋相当)
● 乾燥ひじき/ステンレス釜6gあたり、60mg(大さじ2杯相当)

ちなみに、通常の食事をしている日本人は、どの世代でもカルシウムの必要量が十分に摂れていないと言われています。よほど意識して摂らなければ足りない栄養素ですので、タンパク質同様、カルシウムの多い食材を大量に摂る必要があります。

【ビタミンD】
魚介類、卵、きのこなど含まれている食材が限られており、植物性素材であるきのこの含有量が一番少なくなっています。ある程度、噛む力が付くまでは、きのこは幼児にとって食べにくく、消化の良くない食材であるため、あまり大量に与えることはお勧めできません。また、ビタミンDが不足している状態では、いくらカルシウムを補ったとしても、十分に吸収されず、カルシウムの正常な働きが期待できないとされています。

【鉄】
カルシウムと同じく、食材によって体への吸収率に大きな差があります。
☆ 動物性食材(肉、魚、卵、乳など):30%/★ 植物性食材:10%未満
つまり、植物性食材だけで必要な鉄を摂ろうとするのであれば、単純計算で3倍以上は意識したほうがいいということです。大人換算で1回あたりに食べる量に含まれる鉄の含有量は、次の通りです。

○ 豚生レバー100gあたり、13.0mg
○ あさり水煮30gあたり、8.9mg
● あおのり素干し2gあたり、1.5mg(小さじ1杯相当)
● がんもどき100gあたり、3.6mg(約1個)
● 糸引き納豆50gあたり、1.7mg(約1パック)
● きな粉/全粒大豆/黄大豆6gあたり、0.5mg(大さじ1杯相当)
● いりごま2.5gあたり、0.2mg(小さじ1杯相当)
● 生パセリ15gあたり、1.1mg(1枝相当)
植物性食材は、1回あたりに食べられる量が少ないものが多く、鉄の補給源のほとんどを大豆製品に頼ることになりそうです。

【ビタミンB12】
穀類、いも類、豆類、種実類(ナッツ含む)、野菜、果物、きのこには、ほぼ含まれておらず、動物性食材には広く豊富に含まれています。植物性食材の中では、海藻の一部に豊富に含むものがあるので、ビタミンB12の補給減は海藻のみに頼らざるをえません。
ですが、毎日の海藻の大量摂取はヨード(ヨウ素)の過剰症を招く危険性があるため、絶対におすすめできません。
ヴィーガンの食生活では一番不足が問題視される栄養素で、海藻を食べる習慣のない海外ではサプリメントが必須となっています。(年齢性別ごとの1日に必要な栄養所要量は、こちらを参照→ https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/index.html

 

ここまでで、植物性食材だけでは不足しやすい栄養素を紹介しましたが、
◆ タンパク質+カルシウム+ビタミンD → 骨・歯の成長に影響
◆ タンパク質+鉄+ビタミンB12 → 正常な血液づくりに影響
といった、絶対に不足してはいけない栄養素であることを認識してください。

 

お子さんの成長に影響が出たり、長期にわたる欠乏症では命にも関わることもあります。動物性食材を含めた一般的な食生活をしていても、特にカルシウムや鉄は不足しやすく、動物性食材を抜きにして必要な栄養所要量を満たすのはとても困難です。「どれだけ苦労をしても、安心安全なものしか絶対に食べさせたくない」という気持ちに変わりがないようなら、これらの栄養不足の問題がクリアできるように取り組む必要があります。食材選び・外食問題・給食問題などを含め、覚悟を持って進めていくようにしてくださいね。

厳しく述べましたが、一番大切なことは「お子さんが楽しく食事を続けていけること」に尽きます。どれだけ保護者の熱い想いがあったとしても、お子さんの気持ちを無視して一方的に押し付けることにならないように注意が必要です。お子さん自身が他の食材に興味を持った時や、他の子どもが食べているものを一緒に食べたいと言った時などに、どのように対処していくのか、そんなことも含めながら今後の進め方を試案してください。

まだまだ日本では、ヴィーガンに対応している飲食店は十分にあるとは言えませんし、ヴィーガンのことを良く知らない、という方も多くいます。そういった環境で、今、お子さんのために何が一番良いことなのか、親子で我慢なく食事を楽しむためにはどうしたらいいのか、という点を考えてみることを提案します。離乳食が始まるとのことですが、保健所などの健診などでは、必ず成長に合わせて食材を食べさせているかどうかも尋ねられます。(他にも、保育園・幼稚園の入園前なども)
その時に、お子さんの栄養面や情緒面を考えて計画的に実践しているということを、堂々と胸を張って答えられるのであれば、問題ないのかもしれませんね。

 

※今回は、【管理栄養士】が回答しました。