ブータン編<br>
<font>~経済より心の豊かさを追求するヒマラヤの国~</font>

ブータンは、インド、中国という二つの大国に挟まれ、ヒマラヤの東のふもとに位置する、人口約70万人の小さな国です。九州ほどの大きさの国土は、7割以上を森林が占め、高度7,000mに及ぶ高地もあれば、南部の低地は熱帯と、多種多様な自然に恵まれています。1999年までとられた情報の鎖国政策や人々のチベット仏教への篤い信仰などにより独特の文化が築かれています。

心の豊かさで世界一を目指す国

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首都ティンプーの最も大きな交差点
以前は唯一の信号があったが、今はお巡りさんが立っている

GDP(国民総生産)という経済の指標ではなく、前国王が、GNH(Gross National Happiness)という国民の幸福度という物差しをかかげ、物質的な豊かさではなく、心の豊かさを目指すというブータンの政策が、世界中から注目されました。東日本大震災時に、現国王夫妻が来日され、お二人の美男美女ぶりもさることながら、印象深いスピーチ内容を覚えておられる方も多いのではないかと思います。素敵なロイヤルカップルの間に、今年2月に生まれた王子は、国民のアイドル的存在で、今も、ブータンの人々は、お祝いモードに包まれています。

 

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写真左:ブータンの典型的な家。子孫繁栄のおまじないの絵が書かれています。
写真右:数珠やマニ車(回すことでお経が唱えることとなる)をもってお寺でお祈りする女性たち

ブータンでは、自国の伝統や文化を守ることも、幸福度に深くかかわっており、日本の着物のような伝統服(男性はゴ、女性はキラ)を身につけることが義務づけられています。行政機関、企業、学校だけでなく、町中の人々が、ゴとキラの出で立ちで、それを見るだけで、ブータンの伝統文化に引き込まれてしまいます。一方で、年々車も増え、スマートフォンの普及率も高く、隣国のインド経由で入ってくるアジアや欧米の音楽、ファッションなどの文化は、若者たちに、少なからず、影響を与えています。都市部では、ジーンズにTシャツの若者も見かけますし、実は、若年の失業者が多いのも事実です。

仏教が根づく食生活、伝統はどこまで守れるのか

食生活について、主食はお米、どこに行ってもすばらしい棚田の風景が広がります。 また、仏教の影響で殺生は禁止ですので、基本的には、肉類は食べません(とはいえ、肉屋さんもあります)。川がたくさん流れていますが、川での魚釣りも禁じられています。主なタンパク源は、あちこちを放牧されている牛の乳からつくったチーズです。そして、少々の野菜。なかでも、唐辛子をよく使います。優しいブータン人の気質に似合わず、世界一辛い料理とさえ言われています。

 

写真左:いろいろな種類があるブータンの唐辛子
写真右:ブータン料理。右手前にあるのがチーズと唐辛子を合わせたエマダツィ。

エマダツィ(エマは唐辛子、ダツィはチーズ)というチーズと唐辛子を合わせた、 「ブータン人の味噌」ともいえるおかずのような、調味料のようなものが必ず添えられます。汗がでるほど辛いのですが、これがクセになります。限られた種類 の食材ながら、多様な献立で意外と飽きません。

 

都市の子どもたち、お弁当を持っている

学校制度は、小、中、高そして専門学校あるいは大学とあります。私立の学校もありますが、ほとんどが公立学校で、無償です。ただし、成績が優秀でないと、進学ができないなど厳しい面もあります。また、地方では、交通の便も十分ではなく、小さいときから寮で生活する子どもたちもいます。以前は、歩いて通学が一般的だったようですが、最近では、車で親が送迎する機会も増え、またスクールバスが整備されている私立校も増えているようです。

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農村部から都市へ野菜を売りに来ている女性たち

アジアの新興国同様、女性も働く機会が増え、少子化も進んでいるようです。心の豊かさか、物質的な豊かさか、天秤にかけるものではありませんが、ブータンの行く末が気になります。