~1歳半頃 おしゃべりも喃語(なんご)も、立派なトレーニング!!
からだと同じように、口周りの筋肉もトレーニングが必要です。発達途中の子どもには、おしゃべりすることも立派なトレーニングになります。
「ママ」など単語を言ったり、「ジュース ちょうだい」などの二語文を話したりする時期は、子どもによって大きく異なります。「うちの子、まだおしゃべりを楽しめないのだけど」と心配になるかもしれませんが、大丈夫です。おしゃべり前の「んまんまんま」「あむあむ」のような喃語も、口周りの筋肉や舌の力の発達を促します。
喃語でも、周りの人が声をかけたり真似をしたりして反応すると、子どもは自分のしたことがまわりに影響を与えることを理解して、さらにたくさん喃語を発するようになります。赤ちゃんの喃語にあいづちをうったり、声をかけてあげたりすると、赤ちゃんは相手と「通じ合っている」喜びや心地よさを体験することができます。
コミュニケーションとしても、トレーニングとしても、喃語やおしゃべりを楽しみましょう。

1歳~2歳・ラッパやストローを吹く
1~2歳頃の子どもは、ラッパのように吹いて遊ぶおもちゃが大好きです。吹いても吸っても音が出るもの、消毒できるものなど、市販のラッパのおもちゃにはさまざまな種類があります。
「ストローでコップの中を泡立たせる」ことも、食事のマナーとしてはよくありませんが、口のトレーニングにはとてもよいことです。 誤って飲まないことを子どもが理解できるようになったら、コップにボディソープかシャンプーと水を入れて、食紅を垂らしたらストローをさして、ぶくぶく泡あそびをしてみませんか。楽しく遊びながら口のトレーニングができます。
3歳~ 楽しく遊びながらトレーニング
できることが増えるにつれて、子どもがおもしろがって遊びながら口のトレーニングになることの幅も広がります。
前回の【食事編】でもアドバイスをいただいた千葉市中央区の柏戸歯科医院・院長の柏戸俊彦先生に、よく噛める歯ときれいな歯並びのために、食べること以外でいつもの生活の中でできることを教えていただきました。
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シャボン玉
柏戸先生のおすすめのひとつが、シャボン玉です。便利な吹き具もありますが、ぜひストローを使ってください。しっかり息を吐く訓練になりますよ。わざと細いストローを使うのもいいですね。
口笛、にらめっこ
口笛やにらめっこは音を出せない静かな場所ではやりにくいですが、道具を使わないので移動中や待ち時間など、気が向いたときにいつでもできますよ。
風船
風船の端を結ばなくても、ちょっとだけ空気を入れたら口を離してみてください。空気が抜ける様子も子どもはおもしろがります。
柏戸先生によると、風船をふくらませることができない子どもが多くなってるそうです。遊びのひとつに風船をぜひ取り入れましょう。
口をすぼめる動作の大切さ
風船をふくらませるときと同じような、口の周りの筋肉をつかう動作に「ローソクの火を消す」があります。誕生日ケーキのろうそくの火を3歳になっても吹き消せないことの問題点について、柏戸先生が教えてくれました。
3歳の子どもがローソクの火をなかなか吹き消せないのは、がんばって口をすぼめようとする姿が一見かわいらしいですが、筋肉の発達の観点から考えると大きな問題です。
ろうそくの火を吹き消せない理由は、「フーーッ」と口をすぼめて息を吹くことができないからです。くちびるの周りの筋力がとても弱いため、口をすぼめることができないのです。
先ほど紹介した、風船をふくらませることも、同じように口をすぼめておこなう動作です。

唇の周りの筋肉が発達することで、口をすぼめる動作ができるようになるんですね。唇の周りの筋肉の発達がなぜ大切なのでしょう。柏戸先生にお聞きしました。
唇のまわりの筋力がしっかり発達していない子どもに多くみられるのが、いつも口がポカンと開いている、口唇閉鎖不全と呼ばれる状態です。
人間は口を閉じているのが正しい状態です。しかし、口が開いている時間が長くなると正しい位置に歯が並ばなくなるなど、歯並びにも影響することがあります。
きれいな歯並びのためにも、唇の周りの筋肉をしっかりと発達させたいですね。
さらに前回ご紹介したとおり、口を閉じているときには、巻き舌のように舌の先端が上向きになっている、正しい「舌の姿勢」をキープすることも大切です。
口がポカンと開いているままだと、「口呼吸になりやすく、お口の中が乾燥しやすくなると考えられています」とも教えてくださいました。
鼻呼吸をおこなわずに口呼吸になると、風邪、アレルギー疾患、呼吸器系の疾患や、虫歯や歯周病、口臭のリスクが高まります。
唇のまわりの筋力が弱いと、さまざまな悪影響が出てきます。よく噛める歯ときれいな歯並びのためにはもちろんのこと、健康のためにも筋力がしっかり発達するように、おもちゃのラッパで遊んだり、口をすぼめる動作をおこなったり、毎日の生活に取り入れてみるといいですね。
あいうべ体操 簡単にできるお口の体操
子どもでも簡単にできて、遊び感覚で楽しみながらおこなえる口の体操「あいうべ体操」を、柏戸先生に紹介していただきました。
あいうべ体操のやり方は、次の4つの動作を順にくり返します。声は出しても出さなくてもかまいません。
「あ」~「え」を1セットとし、1日30セットを目安に毎日続けるのが理想です。
参考:あいうべ体操を考案した今井一彰先生が院長を務める「みらいクリニック」のウェブサイト
参考:あいうべ体操を子ども向けに紹介した動画
やり方を覚えたら、湯船につかっているときなどちょっとした時間に、あいうべ体操をおこなってみてください。ドライブ中にもおすすめです。

おしゃぶり・指しゃぶりの歯並びへの影響は?
鼻呼吸やあご、舌の発達を促すとしているものなど、さまざまなおしゃぶりが販売されています。赤ちゃんが自分の指やいろいろなものを口に入れることは自然なことであり、お母さんの胎内で指しゃぶりをする赤ちゃんも多くいます。
おしゃぶりや指しゃぶりが、歯並びにどのような影響を与えるのでしょうか。子どもの歯、歯並びを多く見てきた柏戸先生にお聞きしました。
上下顎前突、出っ歯とよばれるような上か下の歯が横からみると前に突き出した状態が、おしゃぶりの欠点かのように言われていますが、今まで拝見したお子さんでは特に問題はありませんでした。おしゃぶりをすることによって鼻呼吸が促進されることが多少はあるのかなとも思う一方で、おしゃぶりをしていなくてもしっかり口を閉じている子どももいます。
おしゃぶりをしている子は、基本的に指しゃぶりをしないと感じています。また、おしゃぶりは自然と卒業できるような気がしますが、指しゃぶりの卒業はなかなか難しいようです。
実は指しゃぶりは、おしゃぶりよりも歯並びに強い影響を及ぼします。
指しゃぶりはいつ卒業すればいいの?
指しゃぶりの歯並びへの影響と、いつまでに止めればいいのかをお聞きしました。
指しゃぶりは個人差がとてもあります。歯並びへの最も大きな弊害は、食べものを噛み切れなくなることで、歯を噛み合わせたときに上下の前歯の間にすき間ができる「開咬」になることです。また、上顎前歯も傾斜が強くなり、出っ歯になりやすく、口を閉じにくくもなります。
指しゃぶりによって上あごの前歯部が前に、下あごの前歯部が後ろに倒れて上の歯と下の歯の間にだ円状に隙間が空きます。そのため前歯で噛みにくくなり、奥歯で噛む癖がついてしまうのです。
4歳くらいまで指しゃぶりをしているお子さんには、前歯が生え替わるまでに卒業しようと伝えています。なぜなら、永久歯が生えてきたときに指しゃぶりを全くしなければ、ワイヤーのような装置を使わなくても、よくない癖を直すことや簡単にできるトレーニングなどの機能訓練で正しい歯並びに導くことができるからです。
そのため、お母さんには指しゃぶりの卒業完了時期を、5歳と伝えています。ただし他のクリニックではそんな悠長なことは言われずに、もっと早く指しゃぶりを卒業しなさいと指導されるでしょう。
永久歯が生えてからについてもお聞きしました。
永久歯が生えてきてからも指しゃぶりが続くと、永久歯列に影響します。矯正治療も必要になり、自然にきれいな歯並びに移行する可能性はかなり低くなるでしょう。
小学1年生の後半になっても、見つからないように隠れて、または寝ているときに指しゃぶりを続けている場合には、自然に卒業するのは大変難しくなるようです。
子どもの指しゃぶりが気になっているお母さんは、かかりつけの歯科医に相談してみましょう。
2回にわたって子どものよく噛める歯ときれいな歯並びのために、毎日の生活の中で簡単にできることを紹介してきました。お母さんがちょっと意識をすることで、歯と歯並びのために楽しくできることは遊びにも食事にもたくさんあります。ぜひ取り入れてみてくださいね。
コメント・監修/柏戸俊彦
柏戸歯科医院 院長。
矯正歯科では、永久歯に生えかわる前である乳幼児期から、最新の歯科治療の技術や情報を活用して、食育、よくないくせの直し方や簡単にできるトレーニングなど、おうちでできる取り組みを指導しています。16年にわたる診療経験から、子どもの治療は「歯科医院に慣れること」からスタートするていねいでやさしい説明と治療がモットーで、遠方からも多くの親子が来院しています。
柏戸歯科医院 WEBサイト:http://www.kashiwado-dental.com/