おいしさの基準は十人十色
「おいしい!」「うまいっ!」
テレビをつけると、グルメ番組では、今日もタレントさんたちが、有名店の一皿に舌鼓を打っています。街では、ラーメンやスイーツなど、新しいブームが生まれては消えていきます。日本はまさに「おいしい」魅力いっぱいの国、グルメ大国ですね。
ところで「おいしさ」の基準とは何なのでしょう。改めて考えてみると、人によって違ったり、意味があいまいだったりします。「おいしい」の語源は、形容詞「美し(いし)」=「優れている」「好ましい」「見事だ」に由来します。おもに女性が使う言葉だったため、丁寧な言葉として接頭語の「お」がついたとのことです。
「おいしい」と感じる人間の感覚は「味覚」だけではない、ということは、普段の生活ではあまり意識することはありません。「おいしさ」とは、甘みや苦みなどの味覚だけではなく、視覚、触覚、嗅覚、聴覚の五感が複合的に作用して感じるものなのです。例えば、同じ糖分の量でも、柔らかいクッキーほど甘いと感じるという調査結果があります。また、目をつぶって鼻をつまんで、じゃがいもとりんごを食べてもどちらか分からなかったり、五官による知覚の割合は視覚器官が83%、聴覚が11%、臭覚3.5%、触覚1.5%、味覚はたったの1.0%というデータもあります(『産業教育機器システム便覧』より)。おいしさは体全体で感じるものであることがわかります。
子どもの頃の食体験が「食べる=生きる楽しさ」の土台になる
テレビを見ながら会話もなく、一人ぼっちで食べるよりも、家族と一緒に、あるいは友だちとわいわい賑やかに、たわいもない会話をしながら食の時間と空間を“共有”しているときのほうが、食事が一段と美味しくなった経験が誰しもあることでしょう。
とくに、脳や神経・感覚機能が発達段階にある乳幼児の子どもにとっては、食事をする環境が大きな影響を及ぼします。目に入る風景、家庭のあたたかい雰囲気、一緒に食べている人の笑顔、食器や食具の色・形や素材、部屋の温度や湿度、イスやテーブルの高さ、食材の食感やにおい、そして愛情たっぷりのごはんの味。それらの感覚が組み合わさって「おいしい」という個人的な経験と文化が蓄積されていきます。
「料理の腕には自信がない」「忙しくていつも同じメニューばかり…」なんて悩むことはありません。心地よい環境の中で、安心して、楽しく食べること。食べ物の色や形、食感やにおいを味わいながら、一緒に食卓を囲むこと。そこに笑顔と会話のスパイスがあれば、それだけで十分「おいしい」家族のごはんができあがりです。