普段、私たち大人が何気なく食べている食材も、消化機能や体が未熟な乳幼児にとっては、その最初のひと口で「食物アレルギー」を引き起こす可能性があります。
離乳食が始まると鶏卵・乳・小麦の食物アレルギーが現れる頻度が高いため、それらを与え始める時期を遅らせる傾向にありましたが、最近の研究では遅らせることによる予防効果はなく、むしろ早めに与えた方が良いという考え方に変わり、2019年からは加熱した鶏卵の開始時期が早く設定されるようになりました。
離乳食から幼児食に進むにつれ食べられる食材はどんどん増えていきますが、「いつから食べて大丈夫?」の食材でいちばん悩むのは、明確な開始時期が設定されていない“そば”です!
イベントや旅行先などで食べる機会のある“そば”について、食べ始めるタイミング・食べさせ方などを詳しくご紹介します。
適切な処置をしないと命の危険に関わるアレルギー
アレルギーには、本来、わたしたちの体を守るために備わっている免疫という働きが関わっています。
免疫は、体の中に入ってきた異物(体に害を与えるもの/主にウィルスや病原体など)を排除するために攻撃してくれる、とても大切な働きを持っています。これを自然免疫と呼びます。
ところが、本来は異物ではない物質(ダニ、ほこり、花粉、食べ物のたんぱく質など)に対しても、誤って攻撃することがあります。これを獲得免疫と呼び、食物アレルギーにおいては消化や吸収が未熟なうちに起こりやすいとされています。
何がアレルギー反応を起こす物質(アレルゲン)であるかは、年齢、個人差、環境などによって異なります。
また、食べるものの量/加熱・非加熱の状態/食べるときの体調によって、反応には大きな差があります。
通常は食後15~30分の発症が多く、中には10時間後に症状が現れることもあります。皮膚にふくらみが現れてかゆくなるケースから、気道が腫れて呼吸困難を招いたり、アナフィラキシーショックといった短時間に血圧低下や意識障害を起こし、命を脅かすケースもわずかですが起こりうるのが食物アレルギーの怖いところです。
食物アレルギーにより引き起こされる症状
赤字は、そばアレルギーに見られやすいと言われている症状ですが、その他の症状が現れることもあります。
「食物アレルギーの診療の手引き2017」参照
アナフィラキシーとは、これらのうち2つ以上の重い症状が同時に起こることです。さらにそれらと併せて、血圧が下がったり、意識がはっきりしないなどの症状が現れると、アナフィラキシーショックといって、できるだけ早く適切な処置をしないと命の危険に関わる状態となります。
アナフィラキシーの対処には、症状を抑える薬としてアドレナリンの筋肉注射が、即効性で効果が高い方法としてあります。
その他には、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン剤)やステロイドの飲み薬などが処方され、じんましんや鼻水などの不快な症状を抑える方法などがあります。
食物アレルギーを起こした食材は、再発を防ぐため、その後の食べ方を変えていく必要があります。(自己判断をせずに、必ず専門の医師の指導のもと、進めるようにしてください!)
そばアレルギーは直接食べていなくても危険
食物アレルギーは、成長とともに消化機能が高まっていくことで、少しずつ体の中で異物として認識されなくなっていく場合があります。
これにより、卵・乳・小麦などにアレルギーを起こしていた人でも、年齢とともに食べられるようになっていくことが多いのです。
ところが、他の食物アレルギーでは直接食べた時だけ発症するケースが多いのに対し、そばアレルギーは、直接食べていなくても、そば粉を吸い込むだけで粘膜に触れて発症するケースがあります。
他にも以下の3点から、そばアレルギーはより慎重に対応が必要だと考えられています。
コンタミネーション
そばをゆでた湯が食事に混入したり、同じ工場内でそばと一緒に分けて作られていた食品を食べた場合にも発症するといった敏感なケースが見られます。
重症となる可能性
アレルギー反応を1番起こしやすい鶏卵は、アナフィラキシーショックの原因としても1番多い食材ですが、そばを原因としたアナフィラキシーショックは、症例数が少ない割に鶏卵よりも重症者の割合が高いとされています。
発症する年齢
乳幼児に発症率が高い、卵・乳・小麦などの食物アレルギーと異なり、そばアレルギーはどの年齢層でも発症する可能性があり、一度発症すると食べられるようになりにくいと言われています。
そばアレルギーによる重大な事故を防ぐための食材の選び方・タイミング・食べさせ方
そばは、1歳過ぎから与えることができる食材と考えられています。
前述のように、食べさせるのが早くても遅くても、そばアレルギーを持っているのであれば、遅く与えたからといって防げる可能性が高まるかどうかは分かっていません。
(情報源によっては3歳以降をすすめていることもありますが、明確な根拠はなく、あくまでも子ども自身が自分の不調を伝えられるようになるであろう目安の年齢として紹介されていることが考えられます。)
初めてそばを食べさせるときには、必ず、以下の注意点を踏まえて与えてあげてください。
初めてそばを食べさせるときの注意点
選び方
- そばの原材料を確認する。
そばにはつなぎとして、小麦・卵・長いも・山いも・ふのり・こんにゃくなどが加えられている商品もあります。初めて口にする食材や食物アレルギーを持つ食材が含まれていないか、確認しましょう。
- 同時に初めて食べる食材がないようにする。
どの食材によってアレルギーが起きたのかを特定しにくくなります。
タイミング
- 寝不足や疲れが残っていない、体調が良いときを選ぶ。
体調が悪いときは、反応が出やすかったり、アレルギー反応との見分けがつきにくくなります。
- 病院が開いている時間帯に与える。万が一の場合、すぐに受診できる準備を整えておく。
発症した場合すぐに診てもらるよう、かかりつけ医がいる病院が開いている時間を確認しておきましょう。
お盆期間中や年末年始など、長期間休診する医療機関が多いので、そのタイミングは避けましょう。
食べさせ方~経過観察
- 量は、そば1本分までにする。ひと口大に短く切り、指示されたゆで時間よりも長めにする。
心配な場合は、ひと口分で十分です。
食べさせる年齢やそばの種類によっては、やわらかくして噛みやすくなるよう小さく切り、消化の負担を和らげる配慮が必要です。
- 食べてから半日間は、機嫌が悪くなったり、全身に変化が出ていないかを観察する。
アナフィラキシーショックが出る場合、30分以内のことが多いです。
お子さんによっては不快な症状を上手に訴えられず、ぐずりやすくなるなどの変化が現れることもあります。
初めてのひと口から1日経って様子が変わらなかったとしても、次回から通常の1人前を与えるのは控えた方が良いでしょう。なぜなら食物アレルギーには閾値(いきち)があり、ある一定の量を超えると発症することもあるからです。
離乳食で初めての食材を与えた時と同じように、少しずつ数回かけて、量を増やしては様子を見ることを繰り返していくと安心です。
なお、そばそのもの以外にも、そばの成分が含まれている食品や吸い込む可能性のある場面がありますので、十分にそばが食べられることが分かるようになるまでは、気を付ける必要があります。
そばの成分が含まれている可能性のある食品
冷麺/ガレット/雑穀米/そばボウロ、そばまんじゅう、そばクッキーなどの和洋菓子全般/そば茶/そばはちみつ
そばの成分を吸い込む可能性のある場面
そば殻のまくら/そばを調理した器具や蒸気/そば打ち実演や体験会場
市販品の場合は、パッケージの原材料にアレルギー表示がありますので、購入時には確認しましょう。また、外食の時や店頭販売などで不明なものは、お店の人に確認してわかるものを選びましょう。
そばに限らずアレルギー全般に言われることですが、幼少期の肌の健康状態を良好に保っている方が、乾燥や湿疹などを放置していた人よりも食物アレルギーの確率が低いと考えられています。
特に乳幼児の肌は薄くてバリア機能も未熟なので、日ごろから保湿剤などを使ったり適切な治療を受けて、肌の状態を整えておくことも大切です。
細く長く、切れやすい麺なら年越しそばの代用が可能
そばを食べるシーンでいちばん多いのは、日本の習慣のひとつとなっている「年越しそば」ではないでしょうか。
アレルギーが心配でまだ食べさせたくない、既にそばアレルギーがわかっている場合などは、代用として使える食材があるのでご紹介します。
年越しそばの代わりに使える麺
- そうめん、ひやむぎ、細めのうどん、米麺
- 中華麺、沖縄そば(=そば粉不使用)
いわゆる、細めの麺であれば同じような使い方ができるのです。
より見た目を近づけるためには、小麦の全粒粉や海藻などが練りこまれた黒っぽいものを選んでもいいでしょう。(自然食品店や通信販売などで扱っていることがあります)
そもそも年越しそばは、細く長い見た目から「長生き」、切れやすいことから「不運を断ち切る」といった縁起を担いで食べられています。
他にも由来はありますが、この理由であれば他の麺に置き換えてもご利益が得られるのではないでしょうか。
地域によっては年越しそばではなく、うどんや沖縄そばが主に食べられていることもありますので、そばを食べることにこだわらず、安心して家族で一緒に食べられるものを選ぶことをおすすめします。