子どもの味覚はどうやって発達していくの?<br><font>~5つの味覚の役目と好き嫌いとの関係</font>

味覚の形成には乳幼児期の食事が大切と言われるけれど、せっかくいろいろ作っても離乳食を嫌がったり、野菜を食べてくれなかったり……、困ってしまうことはたくさんありますよね。 そんなときに知ってもらいたい、赤ちゃんからの5つの味覚の発達についてのお話をします。

体にとって必要な栄養かそうでないかを識別!
5つの味覚にそれぞれの役割

味には、「甘味」「旨味」「塩味」「酸味」「苦味」といった5つの基本味があり、それらの味を、口内全体や舌や喉などにある“味蕾(みらい)”という器官で感じとります。この五味は、それぞれに役割があることをご存知ですか?

 

「甘味」は、ごはん、パン、麺などに含まれる炭水化物=“エネルギー源”の存在を教える役割。また、「旨味」は、肉や魚などに含まれるアミノ酸=“たんぱく質”の存在を教える役割。そして、「塩味」は、塩などに含まれる“ミネラル”の存在を教える役割があります。この3つの味は、生きていくために「体にとって必要な食べ物」を伝えるため、本能的に好まれる味とされています。

その一方で「酸味」は、“腐敗物”の存在を教える役割。「苦味」は、“毒物“の存在を教える役割があり、この2つの味は、体を守るために避けるべき「危険な食べ物」を伝えますから、初めは受け入れられない味とされます。

子どもには、もともと苦手な味がある!?

このように、味蕾で味を感じる情報は、「食べて大丈夫か」「飲んでも大丈夫か」「体に必要か」という生体防御の判断をするために必要不可欠なもの。その情報は、脳に伝えられ、甘味などの好みの味を感じることができたら、「大丈夫である」というサインが送られるようになっています。

 

そのため、子どもには、「苦味」「酸味」を感じる野菜や酸味の強い果物など、もともと苦手とするものがあります。ピーマンやほうれん草など、歯で噛むとえぐみや苦味が出る野菜を嫌がるのは当たり前のこと。「苦味」「酸味」は、何度も経験することで徐々に慣れていく味なのです。食経験を重ね、さまざまな味を受け入れられるようになっていくと、味覚は発達していきます。

食べないからといってすぐに嫌いと決めつけずに、苦手な食材は食べやすいように切り方を変えたり、固さを調整したり、だしや調味料を使ってえぐみや苦味を和らげるように工夫しましょう。

 

幼児食での工夫を例に挙げてみましょう。ピーマンが苦手なら、繊維を断つように切ること。そして、よく炒めてカレー粉で味付けすると食べやすくなります。トマトは生のままでは食べられなくても、ミートソースにすれば食べられたりします。

そうやって、食べられるように工夫して進めるうちに、いろいろな味を経験する機会が増えて「見慣れたもの、食べ慣れたもの」に安心感を覚え、苦手なものが少なくなっていきます。離乳食・幼児食を通して、多くの食材や料理を経験させてあげることが大切なのです。

味覚はどうやって形成されていくの?

0~1歳頃の赤ちゃんは、離乳食を通してさまざまな味を、食感、舌触り、温度、匂い、色彩などの五感で感じながら、食べ物のおいしさを知っていきます。味付けだけではなく、このような要素も含めておいしさは構成されるのです。

また、「味わう」ためには、食べ物を舌で移動させ、違う味蕾の場所に移して再び味を感じることが必要になります。よく噛み、動かすことでおいしさが持続するため、食べ物を口の中に留めて舌で感じたり、よく噛んだりすることは、味覚を発達させるうえでとても重要になります。

 

2~3歳頃になると自我が発達するとともに、食べ物の好みを主張するようになり、この頃から「嗜好学習」というのが加わります。「嗜好学習」とは、前回も少しお話ししましたが、味だけで“おいしさ”を判断するのではなく、食事のときの環境や身体の状態、五感で感じる体験など、あらゆる情報が積み重なって“好き嫌い”を判断するようになることです。

例えば、「体調が悪い時に食べたら、吐いてしまった」「無理やり食べさせられた」という、嫌な経験があると苦手になってしまいます。一方、「友達と一緒に食べたら嬉しくておいしかった」「食事のお手伝いをしたら楽しくて食べられた」というように、いい経験があると好きなものが増えていきます。

 

子どもの頃は、特に記憶による影響を受けやすいため、食事のときは楽しい経験をたくさん増やしてあげることが何よりも大切。

「あまり食べてくれない」「好き嫌いが多い」など、子どもの食事で悩んだら、まずは、食事の環境を整えて“食べることは楽しい!”と感じるきっかけを作ってあげましょう。

離乳食は食べる楽しさを伝えることが一番。栄養はその次!

離乳食は特別なものではなく、本来、大人の食事から食べやすいものを取り分けて食べやすくし、なじませていくもの。毎回「一から作らなくては」と構えずに、味噌汁の具を“味噌”を入れる前に取り分けるなど、簡単なことから始めればいいのです。

 

赤ちゃんは、食経験が増えると食べることが楽しくなります。ですから、離乳食の開始頃におかゆを嫌がったら、芋や野菜から始めてもいいでしょう。かぶ、にんじんなどは煮たらすぐ柔らかくなり、甘味があるので食べやすいものです。食材は、舌触りがトロッとしていて、ゴクンと飲み込めるよう、簡単に調理しやすいものを選びましょう。極端なことを言えば、食物繊維が多いれんこんやピーマンをポタージュ状にして大変な思いをして作るより、食物繊維の少ないじゃがいも、にんじん、かぶなど、作りやすいものでいいのです。

 

大人の食事に慣れるための離乳食なので、食べられる素材から食べさせてあげて「食べることは楽しい!」と感じてもらうことが、食べる意欲を引き出すことにつながります。

食事のとき、一緒に食事をしていますか?

赤ちゃんも皆と一緒に食事をするのが大好きです。赤ちゃんに食べさせることばかりに集中してしまうと声がけが少なくなることがあります。一緒に食べる人が「おいしいね」と声をかけながら、おいしそうに食べる姿を見せると、「食べることは楽しそう」「食べてみるとおいしい」と赤ちゃんは感じ取ります。家族そろって食卓を囲んでいる様子を見せ、仲間入りさせたりして、楽しい雰囲気を作ることも味覚の発達には大切です。

 

また、赤ちゃんが手づかみ食べを始めるようになったら、手づかみしやすいものを増やしてあげましょう。自発的な行動を応援してあげることで、赤ちゃんの食べる意欲が育ち、味わうことも楽しくなるわけです。

苦手なものは、細かくしたり、すりおろしたりして隠さないで!

幼児期に、苦手なものを他のものと混ぜてわからないようにして食べさせていませんか? 細かく刻んだり、すりおろしたりして、入っているかわからないようにして食べさせるよりは、少しでも苦手なものの形が見えるようにしたほうが将来的には嫌いなものが少なくなります。

気がつかないうちに食べさせられても、苦手なものの克服にはつながりません。むしろ「騙された!」と思い、余計に嫌いになってしまう場合も。信頼していたお母さんとの関係にも影響してしまいます。

 

子どもなりに、苦手なものとわかっていて食べられたら、“自発性の育ち”につながります。この「食べることができた」という達成感は自信にもつながり、「食べられたね、すごいね」と褒められる経験は嬉しいので、また褒められたいという気持ちから、もっと食べたいと思えるようになります。

「食べなさい」と叱られて食べたとしても自発的ではありません。子どもが、自発的に食べていくには、“楽しい”ことが一番です。

味覚は、子どものころに決まるってホント!?

味覚の発達は、3か月頃から10歳頃に発達するといわれています。

以前、私のところに11歳のお子さんと母親が子どもの肥満の相談にやってきました。食生活は洋食に偏り、野菜も苦手で家庭では和食をほとんど食べていなかったと聞き、和食や野菜料理に慣れさせようと思っていろいろ指導しましたが、続きませんでした。

皆さんも外国に旅行に行くと和食が食べたくなったり、おふくろの味が恋しくなったりしませんか? このように子どもの頃から育んだ食の環境は、早々に変えられるものではありません。子どもの頃から、バランスよく食べることや薄味で和食や洋食に偏らずにいろいろなものを食べ慣れていたほうがいいとわかります。

 

味覚の発達は、給食の役割も大きいでしょう。学童期にどれだけの食材や料理を食べたか、よく噛んで食べる大切さを理解しているか、などがその後の嗜好を広げることになります。

子どもたちの嫌いな食べ物は、調査によるとゴーヤ、なす、レバー、セロリ、グリンピース、ピーマンと続きます。給食では、皆が嫌いだから献立にしないということはありません。初めて食べる食材に挑戦させることで味覚が育っていくことがわかっているので、食べることにもあえて挑戦してもらっています。

 

家庭においても10歳頃までに、いろいろな食材や料理を経験しておくことと同時に、励ましたり、褒めたりして食べる意欲を育てていけば、いずれ食べられるようになっていくものですから、無理強いや強制はせずに挑戦させる環境を作りましょう。お母さんに励まされたら、「ちょっと苦手だけど食べてみよう」、お父さんがおいしそうに食べていたら、「食べてみたい」という気持ちになりますよね。そういう経験を通して、嫌いなものが少なくなっていくのです。

 

そうかといって、10歳以降は味覚が発達しないわけではありません。いい「嗜好学習」から“好き嫌い”は変化します。皆さんも大人になってから、今までは食べられなかったものを試しに食べてみたら意外と食べられた、というような経験はありませんか? 苦手なものは自分の意志で食べられるようになるのです。「食べたい意欲」が備わっていたら、慌てなくても大丈夫ということになります。

濃い味付けは、味覚の発達にはよくないの?

離乳食の頃は、まずは、素材のおいしさを知ること。旬の食品を使って、さらにだしを利かせたら、それだけで充分おいしくなります。早い時期から濃い味に慣れてしまうと、素材の味がわからなくなるばかりか、薄味のものを受け入れることが難しくなり、内臓に負担がかかり生活習慣病につながりやすくなります。

 

日本人の塩分摂取量は、摂りすぎであることがわかっています。WHO(世界保健機関)では、一日の塩分量は5g未満としていますが、日本人の成人一人当たりの平均摂取量は男性10.9g、女性9.2g(2014年)。日本人の「食事摂取基準2015年版」においても、目標値は、18歳以上の男性は一日8g未満、女性は7g未満としています。大人でも、世界の値より多すぎるので子どものときから薄味に慣れておく必要があるのです。離乳食の頃から、“だし”を使って素材の味を生かしておいしくする工夫が味覚を広げます。

 

しかし、野菜嫌いには少し味つけを濃くしてもいいでしょう。あまり薄すぎても野菜の味が強調されて食べられないからです。味には全体のメリハリが大切です。