真夏を思わせるような陽気。
それでも日差しはまだ柔らかく空間を包みます。
家具の端材から離乳食用の匙(さじ)を削り始めて7年ほど経ちます。
はじまりは長男のお食い初めでした。
乳児の口の大きさを計測し、
筋肉の動きを確認します。
上唇の筋肉の未発達さ加減を形状に反映させなくてはなりません。
つまり、さじ面を極端に浅くし食べやすさを手助けします。
母乳や哺乳瓶以外のものをはじめて口にする事になるので、
フォルムはそれを意識して削り出します。
ものの20分ほどで形成し、晩の食卓で食事の真似事をしたのです。
はじまりの一食はこんな小さなお匙にひと盛りという食事量。
半年もすればお椀いっぱいに食べるなんて事が想像しづらい程です。
使い勝手がよかったので、身近なひとにお裾分けするうちに、
もっと沢山の家族にもお分けするようになりました。
振り返ると私の作品はそんな「お裾分け」から始まる事が多いようです。
今日は、私の手から今月分のスプーンが旅立っていく日。
一本一本が全国にいるであろう赤ちゃんの手に届けられます。
仕上げに名前を書き入れています。
手書きで丁寧に。
岩手の山で125年前に生まれた桜木。
樹木としての寿命を全うする直前に切り出し、
さらに数年間乾燥させ、
丁寧に手作業で削っていきます。
だから名入れが最も気が張り詰めます。
ここで僅かでも気を抜けば125年から次の歴史にバトンタッチできなくなるからです。
小さな小さな匙に、
小さな小さな文字を書き入れ、
小さな小さな赤子の手に生命を紡ぎます。
そんな本日の一品
「蒸し野菜」
人参・かぶ・かぼちゃ・ブロッコリーの蒸し物。
自家製マヨネーゼを添えていただきます。
マヨネーゼは卵黄と酢、オリーブオイルでものの5分ほどでしあがります。
好みでマジョラム・ブラックペパー・タラゴンでアクセントをつけて召し上がると香り高くいただけます。