心の豊かさで世界一を目指す国
GDP(国民総生産)という経済の指標ではなく、前国王が、GNH(Gross National Happiness)という国民の幸福度という物差しをかかげ、物質的な豊かさではなく、心の豊かさを目指すというブータンの政策が、世界中から注目されました。東日本大震災時に、現国王夫妻が来日され、お二人の美男美女ぶりもさることながら、印象深いスピーチ内容を覚えておられる方も多いのではないかと思います。素敵なロイヤルカップルの間に、今年2月に生まれた王子は、国民のアイドル的存在で、今も、ブータンの人々は、お祝いモードに包まれています。
ブータンでは、自国の伝統や文化を守ることも、幸福度に深くかかわっており、日本の着物のような伝統服(男性はゴ、女性はキラ)を身につけることが義務づけられています。行政機関、企業、学校だけでなく、町中の人々が、ゴとキラの出で立ちで、それを見るだけで、ブータンの伝統文化に引き込まれてしまいます。一方で、年々車も増え、スマートフォンの普及率も高く、隣国のインド経由で入ってくるアジアや欧米の音楽、ファッションなどの文化は、若者たちに、少なからず、影響を与えています。都市部では、ジーンズにTシャツの若者も見かけますし、実は、若年の失業者が多いのも事実です。
仏教が根づく食生活、伝統はどこまで守れるのか
食生活について、主食はお米、どこに行ってもすばらしい棚田の風景が広がります。 また、仏教の影響で殺生は禁止ですので、基本的には、肉類は食べません(とはいえ、肉屋さんもあります)。川がたくさん流れていますが、川での魚釣りも禁じられています。主なタンパク源は、あちこちを放牧されている牛の乳からつくったチーズです。そして、少々の野菜。なかでも、唐辛子をよく使います。優しいブータン人の気質に似合わず、世界一辛い料理とさえ言われています。
エマダツィ(エマは唐辛子、ダツィはチーズ)というチーズと唐辛子を合わせた、 「ブータン人の味噌」ともいえるおかずのような、調味料のようなものが必ず添えられます。汗がでるほど辛いのですが、これがクセになります。限られた種類 の食材ながら、多様な献立で意外と飽きません。
学校制度は、小、中、高そして専門学校あるいは大学とあります。私立の学校もありますが、ほとんどが公立学校で、無償です。ただし、成績が優秀でないと、進学ができないなど厳しい面もあります。また、地方では、交通の便も十分ではなく、小さいときから寮で生活する子どもたちもいます。以前は、歩いて通学が一般的だったようですが、最近では、車で親が送迎する機会も増え、またスクールバスが整備されている私立校も増えているようです。
アジアの新興国同様、女性も働く機会が増え、少子化も進んでいるようです。心の豊かさか、物質的な豊かさか、天秤にかけるものではありませんが、ブータンの行く末が気になります。