みなさん、6月が「食育月間」ということをご存じでしたか?
「食育」という言葉自体はだいぶ世の中になじんできたように思いますが、「食育って、食べることをもっとちゃんと考えようってことでしょ?」となんとなくのイメージだけおもちの方が多いかもしれません。
そこで今回は、食育月間にあたって、ごくごく基本的なことですが、「食育」ってなんだろう? 日本の食育にかんする取り組みはどのように行われてきたんだろう? ということについて復習しつつ、子どもにとっての食育について考えていきたいと思います。
「食育」ってなんだろう?あらためて、おさらい。
2005年、内閣府に設置された食育推進会議により「食育基本法」が作成・成立しました。これは総理大臣と12省庁が連携し、国家レベルで「国民の食について、いよいよみんなでどうにかしないといけない!」と考え定められた、世界でも珍しい法律なのでした。
〉食育基本法 全文 [PDF]
食育基本法の前文にはこうあります。
「21世紀における我が国の発展のためには、子どもたちが健全な心と身体を培い、 未来や国際社会に向かって羽ばたくことができるようにするとともに、すべての国民が心身の健康を確保し、生涯にわたって生き生きと暮らすことができるようにすることが大切である。子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも「食」が重要である。」
国民が健全な心身を培うため、国や地方自治体、教育関係者、そして家庭が一丸となって、総合的に計画を推進していこう!というものです。
また食育について、このように定義されています。
「食育は、生きる上での基本であって、知育、徳育、体育の基礎となるべきものと位置付けられるとともに、様々な経験を通じて、「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てるもの。」
<基本理念>
- 国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成
- 食に関する感謝の念と理解
- 食育推進運動の展開
- 子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割
- 食に関する体験活動と食育推進活動の実践
- 伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配意及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献
- 食品の安全性の確保等における幅広い食育の役割
なんだか少し堅苦しいですよね。この食育基本法に基づき、国ではこれまでに段階的に「食育推進基本計画」を計画・実施し、さらに都道府県は「都道府県食育推進計画」、市町村は「市町村食育推進計画」を実施してきました。ご自分のお住まいの自治体にも、「食育推進計画」があると思います。といっても、なかなか目にする機会はないと思います。ぜひお手すきの時に、自治体のWebサイトを調べてみてください。「●●市(区)食育推進計画」と検索すると、ヒットすると思います。
食べ物はあふれているのに、栄養不足。
国民の食生活を反映してきた「食育推進基本計画」
食育基本法制定の背景には、国民の健康問題・食生活の急激な変化がありました。戦後の復興と共に生活環境も豊かになり、必要な栄養を十分に摂れるようになり、「飽食の時代」を迎えた日本。その反面、食の欧米化、ファーストフードやコンビニ弁当、スナック菓子などいわゆるジャンクフードが普及し、脂質や食塩、肉類を過剰に摂るようになりました。栄養のバランスがくずれ、肥満や糖尿病などの生活習慣病も増加しており、小児期の子どもにも高血圧や肥満などの症状も見られるようになりました。
国民の健康の問題や食生活の変化と併せて、2000年代初頭に起きた食にまつわるさまざまな事件も、食育基本法の制定に拍車をかけました。覚えていらっしゃる方も多いかと思いますが、当時、冷凍食品(中国産ホウレンソウ)の残留農薬問題や、食品メーカーや小売業者による産地偽装問題、またBSE感染牛や鳥インフルエンザなど、食の安全を揺るがす事件が次々に発生しました。時の首相・小泉純一郎氏が、消費者の不安や不信感を取り除くスローガンとして「食育」という言葉をたびたび取り上げたことから、「食育」というキーワードが注目され、その語源にも脚光があたったのです。
歴史をさかのぼると、「食育」という言葉を造語したのは、明治時代の医師・薬剤師で、陸軍医も務めた石塚左玄(1851―1909)です。栄養学がまだ学問として成立していない時代、食物と心身の関係に着目し、食事の指導を用いて病気を治していました。石塚は医食同源としての食養を提唱、「体育智育才育は即ち食育なり」と食育を提唱したのでした。その後、たびたび有識者や企業、メディアが食育という言葉を用いてきましたが、食育基本法の制定により、国民の間に浸透していきました。
さて、話を食育基本法制定以降の国の取り組みに戻します。簡単に年表にまとめてみました。現在進められているのは、「第三次食育推進基本計画」で、平成28年から32年までの5か年計画になっています。
それぞれの食育推進基本計画の重点課題と、その時々の時代の出来事を見てみると、どんなことが見えてくるでしょうか?
PDFで開く
国をあげて、食育計画に取り組んでいる背景には、生活習慣病の増加による医療費や保険料の負担増、食料自給率の低下、日本の食文化の衰退、食品ロスによる環境問題、子どもの貧困など、国の活力にかかわる重大な問題であるからに他なりません。私たちは今まさに、その当事者なのです。
「楽しく食べるこどもに」
積極的に進められてきた子どもの食をめぐる取り組み
食育基本法の策定と並行して、厚生労働省では、栄養学や医学、教育学や保育の有識者が集まり、「食を通じた子どもの育成(-いわゆる食育の視点から―)」のあり方に関する検討会が行われていました。
大人の食生活の乱れと同じように、発育・発達の重要な時期にありながら、栄養素摂取の偏り、朝食の欠食、小児期における肥満の増加、思春期におけるやせの増加など、子どもの食をめぐる問題は多様化・深刻化し、生涯にわたる健康への影響が懸念され始めていました。
また、親の世代においても食事づくりに関する必要な知識や技術を十分有していないとの報告がみられ、親子のコミュニケーションの場となる食卓において家族そろって食事をする機会、いわゆる「共食」の機会が激減していたのです。また、家族や友人、周囲との関係性をうまく作れずひきこもってしまったり、「キレる」行動をとったり、あるいは「いじめ」や「虐待」、凶悪な少年犯罪が増加している背景にも、「食」をめぐる歪んだ現状が影響していることが様々な調査研究からわかってきました。
これらの危機的な状況を踏まえて、2004年までに合わせて7回の検討が行われ、同年2月に「楽しく食べる子どもに ~食からはじまる健やかガイド~」、また4月には、保育所における食育の重要性にかんがみ、保育所保育指針に示されている保育内容や発達過程との整合性を図りながら、食育のねらい、内容、配慮事項を整理した「楽しく食べる子どもに~保育所における食育に関する指針~」がとりまとめられました。
「楽しく食べる子どもに ~保育所における食育に関する指針~」より
【食育の目標】
現在を最もよく生き、かつ生涯にわたって健康で質の高い生活を送る基本としての「食を営む力」の育成に向け、その基礎を培う。
【5つの子ども像】

保育園で長時間を過ごす子ども(長い子では昼食、おやつ、補食(または夕食)を食べます)においても、「食べること」は生活の基本となる活動です。そこで保育園では、「保育所保育指針」に基づいて各保育園で作成されている「保育課程」にのっとり、一人ひとりの子どもの育ちに沿って、保育全体を見通しながら「食育」を重要な項目の一つと位置付けて、保育を展開しています。
このガイドラインは、保育所における食育の指針となっていますが、ご家庭での食育にも大変参考になるものです。
この指針には、楽しくおいしく食べる子どもに育つための5つの目標や発達ごとのねらい・配慮事項がわかりやすく示されていますので、ぜひ一度のぞいてみてください。
(食育のねらいおよび内容)
〉厚生労働省のガイドライン(概要)[PDF]
大切なことは、子どもの視点で考えること。
焦らずに!
発達には個人差があります。どうか育児書や子育ての手引き、インターネットの情報だけを見て焦らないでください。ゆっくり、ゆったりとした気持ちで、「食べさせられる」のではなく「自ら食べる」ことの基礎をつくるということが大切な時期です。
赤ちゃんは生まれながらにして、いきなり「食べる」ことを身につけているわけではありません。お乳を吸う、という行為・哺乳行動を通して、口唇や顎、下、そして口腔全体を使って、食べることの基礎を学んでいきます。
捕食(取り込む)→咀嚼(噛んでつぶす)→嚥下(飲み込む)という一連の随意運動を繰り返しながら「食べる」ことを少しずつ学んでいくのです。その過程が「離乳」です。
乳幼児期は、自分で食べる=「ひとり食べ」、みんなで気持ちよく食べる楽しさを知る=「社会食べ」を身に着ける重要な時期ですが、「食べる」というスキル・体の能力を機械的に伸ばすことだけではありません。そこには、心の成長や情緒の安定が密接にかかわっているのです。
最近では、授乳中にスマホを見続けているお母さんをよくみかけます。赤ちゃんはママの顔をじっと見ているのに、ママの目はスマホの画面にくぎ付けです。これはとても残念なことです。赤ちゃんは、大好きなママや保育者の人の顔を目で追っています。このとき、お母さんが語りかけたり、微笑んだりする愛着行動が、人として生きる上で何よりも大切な自己肯定感や情緒の安定につながっていきます。
また、1歳に近づき離乳食も後期にさしかかると、さかんに手づかみ食べをするようになります。これは大人にとってはとても手のかかる困った行為のように思ってしまいます。しかし、なんでも触りたがる、つかみたがる、というこの行動こそ、この時期特有の探索活動。「これは何だろう?!」という知的好奇心が芽生えてきた証ですね。
大人はついつい、「こぼさないで食べる」「お行儀よく食べる」「規則正しい時間に食べる」ことを急ぎ、焦ってしまいます。しかし、食具や食器をもって一人で食べたがる1歳半頃は、大人とのやりとりが楽しいとき。一方でまだまだ食べこぼしや散らかし食べ、遊び食べなどがみられて当然の時期です。このとき大人が「あれもだめ、これもだめ」とむやみやたらに子どもの行為を禁止したり、子どもからのはたらきかけを無視するような行動をとると、子どもの意欲ははぐくまれません。「はいどうぞ」と差し出したり、「おいしいね」「もぐもぐもぐ」というやりとりや、大人の真似が大好きな時期です。
簡単な食事のマナーやあいさつがなんとなくわかってくるのは2歳ごろです。保育所における食育に関する指針でも、2歳児の食育のねらいはこのようになっています。
「いろいろな種類の食べ物や料理を味わう」「食生活に必要な基本的な習慣や態度に関心を持つ」(できる、という言葉を使っていないことがポイントです)「保育士を仲立ちとして、友達とともに食事を進め、一緒に食べる楽しさを味わう」(楽しく食べることを目標としています)
このように、乳幼児期は、つくられた食事をおいしく楽しく食べる、食事を作る人を身近に感じながら、食べ物への興味関心、また食べ物をいただくという感謝の気持ちを持てるようになるなど「食」の基礎が培われる大切な時期です。そしてそれが生涯にわたってのエネルギーとなる「生きる力」になっていくのです。
忙しい毎日の中でも、いっしょに楽しく食べる時間をできるだけつくっていきたいですね。楽しく食卓を囲みながら、子どもの食と生きる力について、食育月間に思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか?
【イベントリポート】
ボンカレー 食育の取り組み
5月31日、食育月間に先立ち、ボンカレー(大塚食品株式会社)によるイベントが、東京都町田市の光幼稚園で開催されました!ボンカレーは、1968年に、世界初の市販用レトルトカレーとして発売して以来、レトルトカレーの定番として愛されてきました。
題して「日本のこどもたちとおうちの方へ 今までアピールできていなくてごめんなさい!記者会見」。実は約1年前に、使用している具材の野菜、にんじん・玉ねぎ・じゃがいもを国産化し、また、国産野菜10種類とカルシウムとたんぱく質が入った「こどものためのボンカレー」などラインナップも豊富に展開してきました。
当日は、記者会見のあと、ボンお姉さんと一緒に「野菜バスケット」を楽しんだり、園舎に隣接する広大な畑で大根を収穫し、野菜の型抜きをしたり、ボンカレーを試食するなど盛りだくさんの内容でした。野菜に触れ味わいながら園児も保護者も大満足のイベントとなりました。
http://boncurry.jp/
